技術分野
カルシニューリン-NFATシグナリングを阻害することにより、免疫抑制作用を発揮する薬剤に関する。
実用化技術
シクロスポリンAやFK506などカルシニューリン阻害剤は,免疫抑制剤として広く用いられている。しかしながら,これらの薬剤は,腎機能低下,高血圧,インスリン分泌量低下 ,神経毒性など,様々な副作用を有することでも知られている。 このことから,カルシニューリン阻害とは異なるメカニズムを有する免疫抑制剤の開発が望まれている。
われわれは、過去に「11R‑VIVIT」と称される薬剤が開発した(Noguchi H, et al. Nat Med. 2004;10(3):305-9.)。11R‑VIVITは , カルシニューリン‑核内T細胞活性化因子(Nuclear Factor Actibated T cell,以下,「NFAT」)のシグナリング阻害をメカニズムとする薬剤であり,それ以外のカルシニューリンの脱リン酸化に影響を及ぼすことなく,免疫抑制効果を発揮するものである。そのため、副作用の少ない,安全な免疫抑制剤として期待されていたが、11R‑VIVITは免疫抑制作用を発揮する有効濃度の10倍の濃度で細胞毒性を有することがその後の調査で判明した。そのため,薬物としての安全濃度域が非常に狭い点において,11R‑VIVITは,課題を有するものである。
今回開発した「RCAN-11R」は11R-VIVITよりも薬物としての安全濃度域が広い点が特徴である。カルシニューリン‑NFATシグナリングを阻害することで知られるタンパク質として,regulators of calcineurin(以下,「RCAN」)が知られている。われわれは、RCANの配列の一部がカルシニューリン‑NFATシグナリングを阻害すること,ならびにRCANのサブタイプが共通した配列を有することに着目し,このRCANの配列の一部に,細胞膜透過性を高めるためのアルギニン残基を導入した化合物を作製した。
本研究では、かかる化合物が,11R‑VIVITやFK506と比較してより安全性が高く,また,免疫作用を発揮することを見出し,発明を完成させたものである。
技術の特徴と優位性
本技術は、下記式からなる化合物を有効成分とすることを特徴とする免疫抑制剤。
(式)X1-Sp-mR
X1:KYELHAxTxxTPSVVVHVCxSで表されるアミノ酸配列
アミノ酸配列中、xは任意の天然アミノ酸を、Spはnyで表されるスペーサーを、yは任意の天然アミノ酸を、nは0~5の整数を、Rはアルギニンを、mは9~13の整数を、それぞれ表す。
11R-VIVITやFK506と同様に免疫抑制作用を発揮するとともに、11R-VIVITよりも薬物としての有効濃度範囲が広く、FK506で見られるような耐糖能障害などが見られないため、より安全性の高い薬剤の提供が期待できる。
関連する特許や論文等
・特許第6887665号
・Noguchi H, Sugimoto K, Miyagi-Shiohira C, Nakashima Y, Kobayashi N, Saitoh I, Watanabe M, Noguchi Y. RCAN-11R peptide provides immunosuppression for fully mismatched islet allografts in mice. Sci Rep. 2017 Jun 8;7(1):3043. doi:10.1038/s41598-017-02934-3.