技術分野
腰椎棘突起間に小皮切を介して嵌め込まれる低侵襲インプラントに関する。
実用化技術
腰部脊柱管狭窄症による腰下肢症状は、しゃがむ、自転車に乗るなどして腰椎を前屈することで、解剖学的に狭窄の程度が軽減し、症状も改善することが特徴の一つとして知られている。そこでこの特徴を利用して、狭窄部位の棘突起間にスペーサーを挿入し、棘突起間隔を拡大することによって、局所的な腰椎前屈の効果を得るという、より小さい侵襲の新しい治療法も開発されている(X-STOP/Medtronic、米国)。今回我々は、腰部脊柱管狭窄症に対する、さらなる低侵襲治療をめざして、スクリュー(interference screw)とスペーサーを一体型にすることにより小皮切から経皮的に棘突起間にスペーサーを留置することが可能となる、棘突起間スペーサーを開発した。
整形外科領域においてinterference screw は靭帯再建術等の際に重要な役割を果たしてきた。一般的には、作製した骨孔内に靭帯が付着した小骨片を挿入し、これを固定するために用いるものである。骨孔内に挿入された小骨片と骨孔内壁の間にinterference screw をねじ込むことによって、小骨片は内壁側へ押しやられ、結果的に圧迫固定されることになる。我々はこのinterference screwの原理にヒントを得て、新たなデザインの棘突起間スペーサーを考案した。つまり、interference screwとスペーサーとを組み合わせ、一体型とすることによって、棘突起間スペーサーを経皮的に挿入できると考えた。全体的に円筒状の形状であるため、小皮切からガイドワイヤーを通して経皮的に挿入が可能で、棘突起間にinterference screw部をねじ込むことによって無理なく棘突起間隔が開大され、screw部が通過したのちにスペーサー部が挟み込まれて固定される。以上の原理・構造により、本研究で開発を意図する、棘突起間スペーサーは、経皮的手技が可能になり、局所麻酔で手術ができ、従来の手術法(椎弓切除術や拡大開窓術等の除圧術)、また類似の棘突起間スペーサーであるX-STOPより、より低侵襲での手術が可能となることに新規性がある。
技術の特徴と優位性
特許第4797174号公報に開示された発明では、棘突起間に螺入する略円錐状のスクリュー部と、このスクリュー部の長手方向に形成されたスペーサー部と、適宜工具と係合自在又は適宜連結部材と取付自在の頭部とを備え、スクリュー部とスペーサー部と頭部の軸心に貫通孔を有するインプラントであり、棘突起間にスクリュー部を捩じ込む際に生じる開大力を利用して、無理なく棘突起間を開大し、当該棘突起間にスペーサー部を嵌め込むことができる。これにより、局所麻酔下でも、棘突起間スペーサーを体内へ経皮的に捩じ込んで挿入し、棘突起間に留置することが可能となった。
また、特許第5272279号公報に開示された発明は、上記特許第4797174号を改良したものであって、あらたな構成として、次の構成を備えている。棘突起間インプラントの全長の1/3以上の長さの複数本のスリット或いは溝が、棘突起間インプラントの軸方向に形成される。これらのスリット或いは溝は、軸心を貫通する貫通孔に到達する深さのスリット或いは溝とされる。また、これらのスリット或いは溝は、軸心を中心として180°未満の略等間隔に設けられる。この棘突起間インプラントによると、棘突起間インプラント全体にしなりや弾力性を持たせることができ、棘突起間インプラントの挿入および設置が簡便となる。また、棘突起間インプラントと接触する棘突起に過度なストレスが加わることが防止される。これにより、棘突起間の開大の効果を長時間持続させることができ、棘突起の骨破壊を防止することができた。
しかし、いずれの発明においても、挿入初期段階において挿入をスムーズに行うため、皮膚切開に加えて筋膜切開を行ったり、予め棘間靱帯に孔をあける必要があった。また、挿入後期段階においてもスクリュー部の後端側の大径のネジ山の頂部で棘突起間を押し広げるようにする必要がありことから、スクリュー部のうちの径が大きい後端部が、棘突起間を通過する際に、棘突起に過度な力がかかり、接触部の棘突起が削れたり折れたりすることがあった。本発明では、この点を改善し、インプラントを体内へ経皮的に捩じ込んで挿入するに際し、従来よりも容易に捩じ込み挿入でき、且つ、棘突起が削れたり折れたりすることを従来よりも防止することが可能となった。
関連する特許や論文等
・特許第4581097号
・特許第4797174号
・US 8,277,487
・EP(DE) 602006047429.6
・US 8,500,779
・特許第5272279号
・US 9,101,409
・特許第6963775号
・Nishida K, Doita M, Kakutani K, Maeno K, Yurube T, Kurosaka M “Development of percutaneously insertable/removable interspinous process spacer for treatment of posture-dependent lumbar spinal-canal stenosis: preclinical feasibility study using porcine model.” Eur Spine J 21(6):1178-85, 2012.