研究シーズの内容
平成28年熊本地震などの過去の被害地震は,旧耐震基準だけでなく,新耐震基準のピロティ建物にも大きな地震被害が生じることを示した。一方,沖縄にはピロティ建物が多く,過去の被害地震を鑑みると,沖縄における地域の災害ポテンシャルはピロティ建物が支配していると言っても過言ではない。即ち,沖縄に多数存在するピロティ建物に耐震補強を施すことが防災・減災の点から焦眉の急である。
本研究では,緊張PC鋼棒と型枠として用いた鋼板によって,増設した短い無筋の柱幅に等しい袖壁を既存RC柱に強固に一体化する(図1,THW工法と呼ぶ)。THW工法は,(1)緊張PC鋼棒による「能動横拘束」を活用して鋼板を柱表面に圧着するため,あと施工アンカーが不要となり施工が簡素化される,(2)2次壁であった袖壁を圧縮抵抗要素として積極的に活用し,せん断耐力だけでなく曲げ耐力を増大させ,加えて,優れた変形能力を獲得できる,(3)増設する最小袖壁長さを理論的に求めることができ,ピロティの利便性を維持できる,といった施工上・構造上の特徴を有し,その結果,構造的な合理性が期待できる。本研究では,THW工法によるハイブリッド・ミニ耐震壁を実現するため,水平加力実験によって応力伝達機構を検証している。
※THW工法では,補強後の鉄筋コンクリート(RC)柱をミニ耐震壁化する。
図1 Thick Hybrid Wall (THW)工法
実用化イメージ
構造的・経済的合理性を有し,ピロティの利便性も維持可能な耐震補強法
関連する特許や論文等
(1)中田幸造,山川哲雄,JAVADI Pasha,NOORI Mohammad Zahid,金田一男:緊張PC鋼棒と鋼板を活用した既存RC柱の強度・靭性型耐震補強法の曲げ強度,日本建築学会構造系論文集,第85巻,第767号,pp. 97-104,2020.1
(2)中田幸造,山川哲雄,金田一男,黒木正幸,ヌリモハンマドザヒッド,ジャバディパシャ:緊張PC鋼棒と鋼板を活用した既存RC柱への強度・靭性型耐震補強法に関する研究,日本建築学会構造系論文集,第85巻,第778号,pp. 1633-1642,2020.12
(3)増打ちした短い無筋の袖壁を鋼板と緊張PC鋼棒の能動横拘束により既存RC柱に一体化する強度靭性型耐震補強法の開発,(公財)鹿島学術振興財団研究助成,2019年度~2020年度
(4)ローテク・ローコストなハイブリッドミニ耐震壁による鉄筋コンクリート/組積造建物の耐震安全性向上,(公財)高橋産業経済財団,2020年度~2021年度