研究シーズの内容
アクチンは細胞運動を担う主要なたんぱく質であり、アクチン分子やアクチン分子が結合したアクチン繊維、その配向や絡み合いによる高次構造などの多様な構造形態をとることで細胞運動を支えている。アクチンの構造形成の細胞内での生化学機構は広く調べられているが、物理機構はほとんど調べられていない。
そこで当研究室では、細胞運動をアクチンの集団的挙動と捉え、ソフトマター物理の観点からアクチンの構造形成過程を調べてきた。その結果、アクチン繊維溶液は流動速度が増加すると、ゲル様構造からゾル様構造へと変化した。また、真正粘菌変形体の仮足形成と同程度の速度でアクチン繊維溶液が流動するとき、アクチン繊維溶液内にゲル様構造とゾル様構造が共存した。流動下での溶液中のアクチン繊維の形態を調べると、アクチン繊維溶液がゾル様構造の状態ではアクチン繊維が流動方向と同方向に配向しており、ゲル様構造の状態ではアクチン繊維同士が絡み合っていることが分かった。
琉動下でのアクチン繊維の構造変化が細胞運動にどのように貢献しているかはまだ十分にわかっていないが、これまでの研究をさらに発展させることができれば、細胞が能動的に力を発生して運動する仕組みの物理基盤の構築に繋がる可能性がある。
細胞運動は高等生物の免疫系を担う白血球やがん細胞の浸潤や転移とも関連しており、医学や生物学の基礎研究としても意義深い研究である。
実用化イメージ
・生体材料を活用したゲル素材の開発
細胞運動の物理的な仕組みを活用した生物模倣ロボティクスの開発
関連する特許や論文等
・Itsuki Kunita, Katsuhiko Sato, Yoshimi Tanaka, Yoshinori Takikawa, Hiroshi Orihara & Toshiyuki Nakagaki: Shear banding in an F-actin solution, Physical review letters, Vol. 109, no. 24, 248303, 2012.
・Katsuhiko Sato, Itsuki Kunita, Yoshinori Takikawa, Daisuke Takeuchi, Yoshimi Tanaka, Toshiyuki Nakagaki & Hiroshi Orihara: Direct observation of orientation distributions of actin filaments in a solution undergoing shear banding, Soft matter, Vol. 13, no. 14, pp. 2708-2716, 2017.